【インタビュー】ミニマリスト憧れの的!時代を超えて人々に愛される建築、中銀カプセルタワービルの魅力とは?
未来住まい方会議をご覧のみなさんは「中銀カプセルタワービル」をご存知でしょうか?
このビルは、1972年に建築家の黒川紀章氏が設計した、世界初のカプセル型の集合建築です。ビル中央の2つの軸にドラム型洗濯機のような10㎡のカプセルルームがいくつも接続された形からなる特徴的な外観で、異空間な雰囲気をまといながら銀座の街にそびえ立っています。
カプセルルームの中は、収納できる家具やデッドスペースの活用により限られた空間ながらも、快適な空間が保たれています。
また、老朽化したカプセルは住人によりセルフリノベーションが行われ、異なる内装のカプセルはミニマルライフやリノベーションの見本市のようです。
未来住まい方会議でこれまでお伝えしてきた「ミニマルライフ」の先駆けともいえるこのビルは、黒川紀章氏の代表作であり、その後の時代やライフスタイルの変化を予見したかのような革新的なものでした。
世界的にも有名なこのビルは、老朽化と外壁内側に使われたアスベストが問題となり2007年に一度建て壊しが決まりましたが、建て壊しは行われず決議は無効となりました。その後、国内外で保存・再生の声が高まり、その活動が進み始めています。
今回は、中銀カプセルタワービルの保存・再生プロジェクトを進める前田達之さんと、同ビルに住むカプセル仲間の関根さんご夫婦にインタビューを行いました。
「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」とは
今回インタビューにお答えいただいた、中銀カプセルタワービルの保存・再生プロジェクトの前田さんは普段は都内の広告代理店で働きながら、プライベートで中銀カプセルタワービルの保存・再生を行っています。ご自身も複数カプセルを所有している前田さんは、どのような経緯でカプセルに出会い、プロジェクトを立ち上げることになったのでしょうか。
老朽化したカプセルをセルフリノベーション
── 前田さんとカプセルの出会いは何ですか?
前田達之さん(以下、敬称略)「以前から建物の前を通って通勤していて、この不思議なビルはなんだろう?と気になっていました。取り壊しが決まったと聞いたので、もう中には入れないのかと思っていましたが、たまたま不動産屋の広告でここが出ていて。買えるんだ!と知ってから、4年くらい前に一室を購入して使い始めました。」
── 実際に使い始めてみてどうでしたか?
前田「部屋の中は老朽化が進み、はじめはボロボロでした。そこで、DIYは未経験でしたが自分で改装してみよう!と思い、楽しみながらリノベーションしていきました。はじめは難しいものでしたが、始めてみたらすごく楽しくて、どんどんはまっていきました。
加えて、使用しているうちにこのビルに住んでいる人達がすごく魅力的だと分かったのも、思わぬ収穫のひとつです。建物自体に魅力があるし、住んでいる人も面白い。ここは壊しちゃいけないところなのだなと感じ始めました。」
── カプセルを複数所有されているとのことですが、前田さんはどんな使い方をされていますか?
前田「私は、週末にカプセルの住人同士で会合をしたり、自分でリノベーションしたものをオフィスやイベント用に貸し出したりしています。家族が一カプセルずつ、それぞれ生活する場にしようと持ちかけたこともありましたが、それは妻に止められました(笑)」
十人十色の住まい方
── こちらの住人の方々は、カプセルをどのようにお使いですか?
前田「住んでいる方々は建築家やデザイナー・アーティストなどクリエイティブなお仕事をされている方が多いです。全140カプセル中、現在は約70カプセルが使われていて、半数の35カプセルは生活の拠点として居住用に、もう半数は仕事前後に寝泊まりする部屋として使われたり、地方に住んでいる方が東京の拠点とするセカンドハウスのような使い方、またオフィスや趣味に使われる部屋など様々です。
他にも、スタジオや、絵や写真の展示に使ったり、入居者同士でスケジュールを決めてシェアオフィスとして使う方もいます。内装を和室のようにしたり、自分で補修する代わりに家賃を安くしてもらったり、いろんな方がいますね。」
── 本当に使い方は様々なんですね。最近さらに様々な人がこの建物に魅力を感じてくれているとか。
前田「はい。2007年に建壊しが決まった後には、全140カプセル中、20~30カプセルしか使用されていない状態でした。ですが、最近では若い20~40歳代のクリエイティブ系の方々が住み始めてくれて、それから少しずつ保存・再生活動が盛り上がっていきました。」
前田「その人気は世界にも広がっていて、アメリカ在住のアーティストが3年で7回も訪れてくれたり、ビルの写真集が出版予定だったり、実はハリウッドの映画にも登場しているんですよね。いくつかのカプセルは、所有者によってAirbnbで貸し出されているようで、世界各国から建築を勉強している学生などが泊まりにきています。」
前田「活動が始まった今は、このビルを残したいと思う人が増えてきています。最近では見学される方も多いのですが、色んな人がこの建物の良さを再発見して、ビルのファンになり、面白さを他の人に伝えてくれるんです。」
── みなさんには気軽に来て活動を身近に感じてもらえるといいですね。保存・再生プロジェクトの次のステップは何ですか?
前田「現在、管理組合と建て替えか保存・再生かの話し合いを行っているのですが、まずは『このビルを保存・再生していく』と決めることですね。それが決まれば、次は雨漏りや防水工事などの大規模修繕です。これでアスベストを封じ込めることができます。最後に、各カプセルの修繕は企業協賛などで個別に行う計画です。建て替えは4/5以上の住人の賛成がないと決定出来ないので、ビルに住むファンを増やすことで、保存派を徐々に増やしていきたいところです。」
生き物の細胞が生まれ変わるように、新陳代謝するビル
ここで、黒川紀章氏がこの建物のコンセプトとする「メタボリズム」の考え方をご紹介します。
メタボリズムというのは生物学用語で「新陳代謝」という意味を持ちます。中銀カプセルタワービルでは、「ビルを生き物の細胞に見立て、カプセルが古くなったり壊れたりした時は、細胞が生まれ変わるように、古くなったカプセルだけを取り換える(新陳代謝させる)」というコンセプトで建築が行われました。
全140個のカプセルは各4本のボルトで2つの軸に固定されていますが、カプセル同士は独立した構造のため、1つのカプセルだけでも取り換えることが出来ます。個々のカプセルは20年、カプセルを接続する軸部分は250年も保つように作られているそうです。
前田さんは中銀カプセルタワービルについて、こんなふうに話してくれました。
前田「予想していたよりも費用がかかることなどから、まだカプセルの交換は実現されていないんです。
ビルの新陳代謝は行われていないのですが、中に住む人が入れ替わることによって新たな価値やコミュニケーションが生まれています。カプセルの代わりに人が入れ替わることでメタボリズムは実現されているのでは、と考えています。」
二拠点居住するカプセル住人、関根さんご夫婦
個性的な住人の中で、取材時にお部屋を見学させていただいたのは、住人である関根さんご夫婦。関根さんご夫婦は、平日は茨城にあるご自宅に住み、週末だけカプセルタワーに来る生活をしています。ここに住みはじめた9年前からビルの保存・再生を願う「カプセル応援団」を結成し、ビルの様子を紹介する「中銀カプセルタワー応援団」というブログも運営されています。
住み始めた当初は東京観光などもしていた関根さんですが、今では部屋にいるだけで満足してしまうというほどカプセルでの暮らしを満喫されています。 関根さんが主催している「中銀カプセルタワー応援団」のオフ会では、ビールを持ち寄り、カプセル内の床やベッドなど思い思いの場所に座りながらみんなで雑談するそうです。
1972年当初の形を残す”タイム”カプセル
前田さんいわく、関根さんのお部屋が唯一当時のオリジナルなデザインを保っているお部屋なのだとか。関根さんが、収納や部屋の内部をひとつひとつ説明してくれました。
── 無駄なところがなくて、小さい空間が最大限に活かされていますね。敷地が狭くなりがちで、どうしても使える空間が限られてしまう日本の住まいにも、活用できる部分は多いですね。
限られたスペースで住まうために
── カプセルの住み心地はどうですか?不便なことなどはありますか?
関根さん(以下、敬称略)「週末だけ滞在する部屋なので、不便さは全く感じません。キャンプをしている気分で、むしろその不便さを楽しんでいるというか。」
前田「住むうえでのネックを挙げるとすると、4年前に給湯設備の老朽化から、お湯が出なくなってしまったことですね。ですが、お風呂は1階に共有シャワーがあり、近くに銭湯もあるのであまり不便さは感じないです。冷暖房は、関根さんのところはオリジナルのデザインを崩さないように電気ヒーターだけですが、室内が夏は40度、冬は5度になるのでエアコンは必須です。暑い日にはドアを開けて扇風機をまわしている人もいますよ。」
前田「キッチンはとても小さなものですが、食べ物は下のコンビニで買えるし、簡単な調理なら電子レンジや電熱調理器具でできますね。また、近くにコインランドリーがあるので洗濯も心配ありません。不便な面も多いといえば多いのですが、そこは各自工夫して暮らしているようです。」
10㎡に10人が集まるカプセルオフ会
── カプセルの方同士では定期的に集まっているんですか?
関根「そうですね。外で飲んだり部屋に集まったり、その都度声をかけて誘っています。急に参加する人も多いので、どんどんメンバーが増えたり。この10㎡のスペースに10人入ったこともあります!狭いところって、集中もできますし、居心地がいいんですよね。そしてなぜだか長居する。全然みんな帰らないの。」
── 住人の方には面白い人が多そうですね。
関根「ここに来る人は純粋な少年みたいな人が多い。人が集まるとカプセルのことだけで時間を忘れて盛り上がっています。第2の学生生活という感じで面白いです。」
前田「ここに住む人は建築が好きなのはもちろんですが、万博好きや廃墟好きが多いんですよ(笑)集まる人は好きなことが似ていて、仕事では関わらないだろうなと思う人でも、話してみると面白い。私自身、今このカプセルの保存・再生プロジェクトに関わっていることが、不思議だなと感じているんです。この活動に関わるのは運命だったのかも。」
世界的な建築に住める価値
── ここに住む魅力は何でしょうか?
関根「世界的に有名な建築に住めることですね。 バブル時代は1カプセル3000万円するほど高かったそうです。でも今は車1台分くらいです。サラリーマンでも、歴史に残るような記念碑的建築物に住めるんですよ。
私は、この建築の専門的な知識や、建設当時の記憶や体験もないけれど。一般人がこれだけ価値ある建築物に住むことが出来るということは、とてもすごいことだと考えています。本来ならば自分たちが居られない空間。ここはまさしく、どこにもない『本物』の空間です。」
広がるビルの可能性、これからのビル、カプセルの形
── これからカプセルでいろんなことができそうですね。
全員「そうですね!企業に協賛してもらってテレビ中継を行いながら実際に1カプセル交換してみるとか、中の設備は最新の機器で揃えたり、隣同士のカプセルの壁を取ってしまって左右や上下連結した部屋を作ってみたり……。今は想像しているだけですが、楽しいですね。そんな妄想に近いことを住人同士で話したりもしているんです。」
(インタビューここまで)
楽しい話題はいつまでも尽きませんでした。まるで下町のような、人同士の心の近さと安心感。そして、そこにいるだけで面白く温かい空気感がそこにありました。
建築から43年経った今なお先進性を感じる建築コンセプト「メタボリズム」と、近年さらに多くの人々に愛されているビル。黒川紀章氏はその時から小さな暮らしの豊かさや、ライフステージに応じた暮らし方を予期していたのかもしれません。
(文=山崎ななえ)
お二人のHPはこちら ⇒
・中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト Facebookページ
・中銀カプセルタワー応援団 ブログ
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